【ワインの渋み】栽培・醸造・熟成とタンニンの変化について

テイスターへの道
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後藤 奈美さん著「赤ワインの渋味 ―ブドウ栽培と醸造の影響―」というレビュー文献を読みましたので、自身の勉強もかねてまとめます。

できるだけ平易な言葉でまとめますので、ワインの渋みについて少し専門的な知識を得たい方は、ぜひ最後までご覧ください。

原著を読みたい方はJ-Stageの原著論文をご覧ください。

コットン
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最初の方は渋みに関する基本の内容。

知識がある人はここから読み始めてね。

渋みの正体はポリフェノールの一種「タンニン」

ご存じの方も多いですが、赤ワインの渋みの正体は「タンニン」という成分です。

タンニンは植物由来のポリフェノールで、ワインの場合は主に「縮合タンニン(プロアントシアニジン)」が関わっています。

縮合タンニンは、ぶどうの「皮」や「種」に多く含まれており、赤ワインの製造過程でこれらが抽出されることでワインに渋みを与えます。

渋みを感じる仕組み

「渋み」は、甘味や酸味のように舌の味蕾で感じるものではありません。実は「触覚」に近い感覚です。

具体的には、タンニンが口の中で「唾液のタンパク質」と結合することで起こります。

  • 唾液タンパク質が変性・凝集される
    → 口の中の「滑らかさ」が失われ、ざらざらとした摩擦が生じる。
    → これが「渋み」として感じられるのです。

果皮と種のタンニンは違う種類

経験的に「果皮のタンニンは滑らか」「種のタンニンは荒々しい」と言われますが、科学的にもこの違いは証明されています。

  • 果皮のタンニン:エピガロカテキンが多く含まれ、渋みが柔らかい。
  • 種のタンニン:エピカテキンガレートが多く含まれ、渋みが強く、乾いた感じや粗さを生みます。

つまり、赤ワインの滑らかな渋みは「果皮由来のタンニン」によるものが大きく、逆に荒々しい渋みは「種由来のタンニン」が関わっているのです。

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ぶどう栽培と渋みの関係

渋み成分である縮合タンニンは、ぶどうの成長環境によっても変化します。

代表的なものを下記に示します。

  1. 光の影響
    • ぶどうの実は光を浴びることで縮合タンニンの生成が促されます。ただし、紫外線より「可視光」の影響が大きいことが分かっています。
  2. 温度の影響
    • 高温環境では果皮のタンニンは減少しやすく、逆に種のタンニンが増加することがあります。これが、暑い地域のワインで渋みが強くなりがちな理由です。
  3. 成熟期の違い
    • 縮合タンニンはぶどうが青く硬い「幼果期」にピークを迎え、その後は減少します。よって、収穫時期や栽培環境がワインの渋みに大きく影響するのです。
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ブルゴーニュのピノ・ノワールのタンニンが特に緻密なのは、日照があり温度が低いからなんだね!

ワイン醸造と渋みの調整

ワインの渋みは醸造の過程でもコントロールできます。

代表的なものは次の通り。

  1. 発酵温度
    • 低温発酵(20℃程度)では、果皮からのタンニン(エピガロカテキン)が抽出されやすくなり、滑らかな渋みが得られます。
    • 高温発酵(30℃程度)では、種のタンニン(エピカテキンガレート)も抽出されやすくなり、渋みが強くなります。
  2. 抽出時間
    • 発酵期間が長いほど種のタンニンが抽出され、荒い渋みが増加します。逆に短期間の発酵なら、果皮由来の滑らかなタンニンが中心となります。
  3. 醸し方法の工夫
    • コールドマセレーション(低温浸漬)
      発酵前に果皮や種を低温で浸漬することで、果皮の成分だけを優先的に抽出し、種のタンニンの影響を抑えられます。
    • デレスタージュ(液抜き法)
      発酵中に一度ワインを抜き取り、種を取り除いてから戻すことで、渋みの強い種のタンニンを抑える効果があります。

熟成が渋みをまろやかにする理由

「ワインは熟成すると渋みがまろやかになる」と言われますが、これはタンニンの構造が変化するから。

  • 熟成中にタンニンは「短く分解」され、タンパク質との反応性が低下します。
  • また、タンニンがアントシアニンと結合して新しい成分を作り、渋みが和らぐと同時にワインの色調も安定します。

以前は「熟成中にタンニンが高分子化してまろやかになる」と言われていましたが、実はワインのような酸性環境の場合、加水分解によってタンニンは低分子化します。

低分子のタンニンの方が口当たりがまろやかであることもわかっており、これによって若いワインに感じられる強い渋みが、熟成と共に「まろやかな渋み」に変化するのです。

醸造・熟成中に発生するタンニン

果皮や種にもともと存在していたわけではなく、醸造・熟成中に発生するタンニンもあります。

ひとつは、アセトアルデヒドを介してカテキン類や縮合型タンニンがエチルブリッジ(架橋構造)を形成して作られるタンニン。

もう一つは、縮合型タンニンとアントシアニンが求核置換反応や求電子置換反応によって結合したタンニンです。

こちらのタンニンは、分子同士の電子状態が起点となるため、アセトアルデヒドは関与しません。

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求核置換反応や求電子置換反応は、かなり専門的な有機化学の分野なので、分からなくても大丈夫!

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【まとめ】渋みはバランスが大切

赤ワインの渋みは、果皮や種の縮合タンニンが生み出す「触覚的な感覚」です。

栽培環境や醸造方法、熟成期間によってその強さや質が変わるため、渋みのバランスを整えることが美味しいワインづくりの鍵となります。

ソムリエとしては、ワインの渋みを深堀して「果皮由来の柔らかい渋み」「種由来の力強い渋み」といった違いを感じ取り、お客様にその魅力を伝えることが大切です。

ワインの渋みは「科学」と「感覚」が交わる興味深い世界。

ぜひ、次のテイスティングで渋みの違いを感じてみてください!

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