ソムリエ協会の分科会セミナーで、フランス ローヌ地方の著名な生産者であるM・シャプティエの講義を受けました。
講義をしてくださったのはシャプティエのアジア輸出部長であるエドゥアール・パヨ氏。
主催してくれた三国ワインさんには感謝しかありません。
参加できなかった人も多いと思うので、できるだけ詳細にセミナーを記録します。
ソムリエ協会の分科会セミナーとは
ソムリエ協会が協賛企業と共に主催するセミナーで、著名な生産者を招待して講演いただきます。

普段は飲めないワインを、生産者の解説つきで飲める!
とても有益なセミナーなので、ソムリエ協会の会員であれば是非参加されることをお勧めします。

ただし人気が凄いので、申し込み期間に入ると一瞬で満席になってしまうよ
フランス ローヌ地方を代表するM.シャプティエ
ローヌ地方で200年もの歴史を持つワイナリーである、M・シャプティエ。
1991年に、当時ローヌ地方では見向きもされていなかったビオディナミ農法を取り入れ、パイオニアとして言われています。
なんと全世界で138か国にワインを販売し、売り上げは6,200万ユーロ(100億円以上!)にもなります。
下記の5段階のシリーズに分け、多様なラインナップのワインを作っています。
シリーズ | 概要 |
シングル・ヴィンヤード | 珠玉の単一畑 |
アルケミー | 有機/ビオ認証区画 |
エクセレンス | 上位アペラシオン |
プレステージ | 特別な区画の畑 |
トラディッション | エントリーグレード |
「自分たちは画家のようなもの。テロワールはキャンパス。テロワールが主役で、自分たちの名前は端っこに少し書けば良いんだよ」と言っていたのが印象的でした。
「北ローヌの急斜面で、落下防止の安全ベルトを着用しながら畑仕事しているんだ」と言いながらも自分たちは脇役に徹していることからも、テロワールへの尊敬の念を感じました。
Mシャプティエの分科会セミナーで飲んだワインを紹介

それではここから、実際に飲んだワインをコメント付きで紹介していきます。
クローズ エルミタージュ レ・メゾニエ ブラン2023

シャプティエの中ではスタンダートなクラスに分類される、マルサンヌ種のワイン。
生産者いわく「マルサンヌがよくわかるワイン」とのこと。
洋ナシやカリンなど、成熟したフルーツの香りが豊かにありつつ、ローストアーモンドのような酸化的なニュアンスのある香ばしい香りもあります。
オーク樽を使って2日間発酵させているものの、熟成はステンレスタンクで行われているため、果実味がダイレクトに伝わる香りと味わいです。
マルサンヌ種らしく、酸味は穏やかで柔らかな口当たり。
余韻も程よく、いろいろな料理に合わせやすいと感じました。

初心者でも飲みやすく、マルサンヌが好きになる1本だと感じたよ!
エルミタージュ シャンタルエット ブラン 2019

こちらもマルサンヌ種100%のワイン。
ただし先ほどのレ・メゾニエとは大きく異なり、かなり複雑な香りと味わいで、初心者は「なんかよくわからない」と感じるかもしれません。
というのも、①小石を多く含む沖積土壌、②砂利を含んだ粘土質土壌、③花崗岩土壌 という3種の畑のブドウをブレンドしつつ、ステンレスタンク・新樽・古樽で熟成をしているから。
カリンの果実やアカシアの花といった果実由来の香りと、ショウガやロースト香、さらにクルミやナッツのような香りまで様々。
ワインを飲みなれている人であれば、香りの豊かさと余韻の長さに驚くことでしょう。
また、温度が上がっていくにつれて香りのバランスも変化していき、全く飲み飽きない素晴らしい品質でした。
クローズ・エルミタージュ レ・メゾニエ ルージュ2021

ここからは赤ワイン、品種はシラー種。
クローズ・エルミタージュらしく、ややムワッとさせるようなスモーキーなニュアンスがあります。
シラー種の特徴であるスミレの香りに加え、動物的なニュアンスをしっかりと感じられる1本で、シラーに特徴的な黒コショウの香りもかなりわかりやすい。
粘土質、砂利質、沖積土壌で栽培されたブドウを使い、85%はコンクリートタンクで熟成。
熟成時に樽は15%しか使っておらず、果実味を感じやすい製法にしており、シャプティエいわく「新樽を使うのはメイクアップする程度だよ」とのこと。
フレッシュさとエレガンスを意識して作っているワインということでした。
コート・ロティ クワテュオール ルージュ2020
こちらもシラー種100%のワインですが、まず特徴的なのはその香り。
お花屋さんに入った時のような、様々な花の香りをファーストノートで強く感じ、そのあとに黒コショウのスパイス感が追いかけてきます。

リーズナブルなシラー種では絶対に感じられない香り・・・!!
土壌は沖積土、花崗岩、シルト、粘土石灰岩。
大樽と小樽を半々に分けて熟成させています。
タンニンの量は豊富だけど、ギシギシしない質感でとても繊細な口あたりでした。

このワイン、本当に好き!
エルミタージュ モニエ・ド・ラ・シズランヌ ルージュ2015

こちらもシラー100%で、土壌は沖積土、花崗岩、シルト、粘土石灰岩。
同じ土壌ですが、コート・ロティとは違い、こちらはフルーツが中心的な香り。同じ価格帯なのにこうも違うのかとびっくり。
2015年と熟成していることもあり、マイルドな余韻が長く続きます。
隣接しているクローズエルミタージュは湿度を帯びたようなスモーキーさを感じるのに対し、こちらはまっすぐな香りが長く続く印象。
飲んでいる途中の味わい(ミッドパレット)も厚みがあり、軽快さが特徴のクローズエルミタージュに対し、重厚な高級感を感じました。
エルミタージュ ル・パヴィヨン 2012

最後に「セミナーでこんなワイン出していいの?」ってレベルの高級ワインが出てきました。

香りのボリュームが別格!
香りの奥行きが他のワインとは別格で、若干の甘さを感じさせます。
シズランヌ(エルミタージュ)よりもアンニュイな印象で、ブルゴーニュで言えばヴォーヌロマネのような印象。
ハイグレードワインらしく、いつまでも続くような余韻と共に、シルキーなタンニンが全てを溶け込ませてくれている。
辛口なのに味わいの中にやや甘さがある、なんとも複雑なワインでした。
おそらくワインを飲みなれていない人であれば、このル・パヴィヨンよりもクワテュオール(コート・ロティ)やシズランヌ(エルミタージュ)の方が高級だと感じると思います。
フランスの高級ワインによくある「なんかよくわかんないけど複雑」という印象で、分かりにくいからこそ香りや味わいを理解できたときに感動を覚えるような、深い世界観のワインでした。

シャプティエの講師も、このワインだけは吐かずにテイスティングしていたよ(笑)
せっかくなのでシャプティエに質問してみた
こんな機会はなかなかないので、気になっていた点についてシャプティエに聞いてみました。

今日飲んだワインはいずれもエレガントで、地球温暖化の影響をあまり感じられませんでした。温暖化対策で何か特別していることはありますか?

例えばアルザスは温暖化で一時的に品質が大きく下がったが、ビオディナミに転換することで名声を取り戻した。シャプティエはビオディナミだから温暖化の影響は少ないのですか?
これについて回答いただいた内容をそのままお伝えします。
-シャプティエ
「温暖化ね、トランプ(大統領)の影響で止めようもなくなっているよね。もちろん我々のワイナリーも温暖化の影響を受けていて、なんとか対応しているよ。
ビオディナミ農法もその一つだと思っている。けれどそれだけではなかなか対応しきれていない。
特に南ローヌ、シャトー・ヌフ・デュ・パプはひどく影響を受けているよ。
北ローヌはまだマシ。ミストラルの影響でかなり気温が下がりやすいからね。フランスの中でも、北ローヌは渓谷によって守られている土地だと感じているよ。
でも、『これをすれば温暖化の影響は回避できる』っていうことはない。
そして畑のエピジェネティクス(環境に応答した、DNAのオンとオフの機能)も大事。
我々の畑は2020-2023年頃に、環境に対応してきたと感じているよ。
畑の特徴をよく理解して、畑仕事や醸造法、いろいろなことで少しずつ対応することが大事だと思うよ。」

エピジェネティクスまで考えてワイン作りをしているなんて・・・!!
こんな機会はなかなかないです。
興味が沸いたら、皆さんもセミナーを受講してみてくださいね。
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