ワインって長期保管するイメージがありませんか?
テレビで50年物、100年物のワインが特集されていたり、もっと前の物も残っていたりします。
このように長期熟成したワインを、熟成ワイン、ヴィンテージワイン、古いワインなどと言ったりしますが、ワイン好きな人はおそらく誰しも一度は熟成ワインの沼にはまると思います。
一方、強く熟成したワインは独特な味わいで扱いも難しく、初心者にはおすすめできません
今回はワインの熟成について解説し、初心者におすすめしない理由、初心者にもおすすめできる軽く熟成したワインを紹介します。
初心者にもわかる ワインの熟成とは? 熟成で起きる変化
ワインが他のお酒と違うのは、瓶詰めしたあとも味が変わり続けることです。
したがって、買ってきたワインを適切な環境で置いておくだけで熟成ワインが作れてしまいます
ビールでも味は変わりますが、基本的には味は落ちていき、いずれ飲めなくなりますよね。
ワインは瓶詰めしてからも熟成でおいしくなる、数少ないお酒なんです。
ワインの製造工程の途中でも熟成工程はありますが、今回は話を単純にするため、瓶詰めしてからの熟成に絞って解説します。
製造工程中の熟成については、ワインの作り方を別にまとめていますのでそちらをご覧ください。
初心者が熟成した白ワインやスパークリングワインを飲む機会はかなり少ないと思いますので、今回は赤ワインに絞って解説します。
赤ワインの熟成で起きること 成分の化学変化(高分子化)による沈殿
ワインの熟成とは、年月と共にワイン中の成分がいろいろ変化することです。
わかりやすい例をいくつか紹介します。
熟成によるタンニンの変化
タンニンは渋柿にも含まれている成分ですが、原料となるブドウにも豊富に含まれています。
作りたての時は一個の分子ですが、時間と共にほかのタンニンと結合して大きくなっていきます。
分子は大きくなると溶けにくくなるため、タンニンは時間と共にゆっくりとワインに溶けにくくなり、ついには沈殿となって落ちていきます。
この動きによってワイン中のタンニンが減り、まろやかな味わいになります。
熟成によるアントシアニンの変化
アントシアニンは紫色の色素です。「目に良い成分」として有名ですね。
ワイン中に含まれる紫色の色素分子であるアントシアニンも、タンニンと同じように時間と共に大きくなっていきます。
大きくなりすぎたアントシアニンはタンニンと同じように沈殿になります。
アントシアニンは色素なので、沈殿した分だけワインの紫色が弱くなり、結果として茶色っぽい色になっていきます。
熟成によるワインの色の変化
赤ワインの場合、熟成したワインは縁の部分が茶色になっていきます。(図はちょっと極端に書いています。)
これは先ほど説明したアントシアニンの沈殿による影響で、プロのソムリエは茶色具合で熟成年数にあたりをつけます。
熟成によるワインの味わいの変化
タンニンの項目でも触れましたが、ワインは熟成するとまろやかになっていきます。
渋み成分であるタンニンが沈殿となっていなくなるため渋みが弱まるのですが、この状態のことを「ビロードのようなタンニン」と表現するくらい滑らかな舌触りになります。
また、ワイン中にたくさん含まれている酸についても、熟成で少しずつ丸くなっていき、香りにも影響を与えます。
これにより、まろやかで香り豊かなワインになっていきます。
熟成でおいしくなるワイン まずくなるワイン 違いはワインの濃さ
ここまで解説したように、熟成の味わいに関わるのは主にタンニンや酸です。
これらが時間と共に柔らかくなっていくことで、味わいや香りの複雑みが増すのです。
つまりタンニンや酸は熟成においておいしさの素のような働きをするため、タンニンや酸が多いほど熟成向きといえます。
よって、乱暴に言えば次のようにまとめることができます。
熟成でおいしくなるワイン:作りたてだと濃くて渋くて酸っぱいワイン
熟成で味が落ちるワイン:作りたてから渋さや酸っぱさのバランスが取れているワイン
意外かもしれませんが、低価格なワインの方が熟成させずに飲むことを想定しているため、作ってすぐからおいしく飲めるものが多いです。
一方で高級ワインは長期熟成を想定しているため、作りたてだと渋くて酸っぱくなっており、最低限飲めるレベルになるまでワイナリーで保管しています。
もちろん「作った直後であれば、安ければ安いほどおいしい!」というわけではありません。
ざっくりこういう傾向があるくらいにとらえておきましょう。
収穫年とワインの出来栄えの関係
熟成にとって、タンニンや酸が重要であることはこれまでに話しました。ではこれらを増やすためにはどうすれば良いでしょうか?
「醸し」という製造工程を長めに取ることで増やすことができるなど、人間の手で対応可能な範囲もありますが、やはりブドウの出来映えに左右されます。
「アルコールの素となる糖分や、果実の成熟で発生する香り成分をしっかり持ちながらも、タンニンや酸もしっかりあるブドウ」というのが良くできたブドウです。
よく熟した甘くておいしいブドウは、食用では良くできたブドウとしてとらえられますが、ワイン用としてはちょっと違います。
ブドウの出来映えで一番有名なのはボジョレーヌーボーで、「今年は○○な年!!」とコメントがありますよね。
あのコメントはこのような背景をもとにされていて、「今年のブドウの熟成ポテンシャルはどうかなぁ」というイメージで決められています。
ワインの当たり年(グレートヴィンテージ)とは熟成ポテンシャルの高い年のこと
ワインに詳しくない人でも「当たり年(グレートヴィンテージ)」という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか?
言葉だけ聞くと「ブドウの出来がよくて、おいしいワインが作れた年なのかな」と思ってしまいますが、そうではありません。
では当たり年とは何か。一言でいえば「長期熟成に向くブドウを作れた年」といえます。
つまりここまで熟成について説明してきたように、「熟成に向く=酸っぱくて渋い」であるため、当たり年のワインは酸っぱくて渋いといえます。
特に高級ワインほどこの傾向が顕著なので、5年以内くらいの当たり年の高級ワインは相当飲みにくいです。
逆に「良くない年=長期熟成に向かない」なので、渋さも酸っぱさもひかえめで、5年以内などであれば良くない年のワインの方がおいしいことが多いです。
高級ワインの当たり年を飲むときは、少なくとも10~20年以上は経ったものを飲みたいですね。
ただし他の年に比べてめちゃくちゃ高くなります・・・。
熟成ワインの魅力3選
ここまではワインの熟成とは何かを解説してきましたが、ここからは熟成ワインだけが持つ魅力を紹介していきます。
※ちゃんとした環境で熟成されていることが前提です。
新しいワインにはないまろやかな味わいを堪能できる
ボジョレーヌーボーのような特殊なワインを除き、若いワインではやはり渋みがあります。
人によって違いますが、歯茎や舌がキュッとする感覚を感じる人が多いといわれています。
渋み成分であるタンニンがもつこの作用を収臉性(しゅうれんせい)と言いますが、これが苦手という人も多いです。
一方で熟成したワインでは、このような刺激はほとんどありません。
まるで舌にスッとなじむように、刺激がほとんどない優しい渋みを感じ、とても飲みやすいです。
これはこれで好みも分かれますが、渋みが苦手な人は一度トライしてみてください。
新しいワインにはない複雑な香りを感じられる
熟成ワインの最大の魅力として、香りの広がりと豊かさが挙げられます。
熟成にかかわらずワインにとって香りは命ですが、熟成前後で明らかに香りの質が変わります。
これも好みが分かれますが、若いワインだと果実、花、スパイス、バニラなどの香りが香るのに対し、熟成ワインではさらに皮製品やトリュフのような香りが加わり、深みのある香りになります。
それぞれに魅力があるためどちらが良いという話ではありませんが、どちらの香りも体験した方が楽しいと思います。
特にメルローという品種は熟成で真価を発揮するため、体験する価値ありです。
若い時は香りも控えめで没個性という感じですが、熟成で何とも言えない香りになります。
若いワインよりも圧倒的に余韻が長い
余韻はワインの「格」を表すといわれています。
若いワインでも余韻が長いワインはたくさんありますが、熟成ワインの余韻はさらに長いです。
飲み込んだあともずっと残る香りは、一度体験してみる価値があります。
熟成ワインのデメリット・面倒な点2選
ここまでは熟成ワインの良いところを見てきましたが、デメリットもあります。
デメリットを考えると、本格的な熟成ワインを初心者にはおすすめしにくいです。
熟成ワインは沈殿が多く 扱うのに技術が必要
ここまで説明したように、熟成ワインは時間と共に沈殿ができています。
さて、この沈殿はどこにあるでしょうか?
もちろん瓶のなかにあり、立てて保管している場合は底、横の場合は側面に貯まっています。
ここに貯まった沈殿を動かすことなく取り出し、開栓し、注ぐにはかなり技術が必要です。
それ以前に、冷蔵庫に保管している場合は絶えず微振動しているため、沈殿が常に浮いています。
つまり、沈殿のあるワインを飲む以上はワインセラーと注ぐ技術が必須です。
飲む日程を決め、その一ヶ月前から少しずつワインボトルを動かし、底の一点に沈殿を集めてから開けるというワインマニアもいます。
それくらい熟成ワインの沈殿には気を使います!
熟成ワインはコルクが開けにくい
ワインのコルクは古ければ古いほど開けにくいです。
特に20年以上熟成したコルクを開けるのは技術や道具が必要になってくるため、初心者がうかつに手を出すとボロボロになってワインの中に全て入ったという事例も多いです。
私も何回も失敗しましたが、古いコルク用のオープナーを使うと少しやりやすくなります。
ワインを開ける場合、スクリューを差し込んでいくイメージがあると思いますが、古いコルク用のオープナーはコルクを挟んで引っ張ります。
これを使うと技術がなくても、コルクを壊さずに抜きやすくなります。
どうしてもスクリューで抜く場合、スクリューを斜めに刺して、コルクに刺さっている部分が少しでも多くなるようにしましょう。
さらに、コルクを少し貫通させるまでスクリューを刺しきると、空気の通り道ができるので圧力がかかりにくくなり壊れにくくなります。
上記のスクリューを使った方法でも、経験の少ない人はたいてい失敗します。
基本的にはオープナーを用意する必要があるでしょう。
一部、古くなったコルクを新しいものに変えて販売するリコルクという作業をしてくれているものもあります。
初心者におすすめなプチ熟成ワイン
ここまで熟成ワインの美味しさとデメリットを見てきました。以下にまとめます。
- しっかりと熟成したワインは扱いが難しい。飲食店で楽しみましょう。
- 少し熟成したワインなら家庭でも楽しみやすい。5~10年熟成くらいを狙いましょう。
熟成ワインの魅力を感じたいけど扱いが面倒なので、家で楽しむ場合は少し熟成くらいのワインならメリットだけを得られるというわけです。
クネ リオハ レセルバ【スペイン】
スペインで最も有名な産地、リオハで作られた熟成ワイン。
リオハのワインで「レゼルバ」と記載するためには「3年以上は熟成させること。そのうち1年以上は木樽で熟成させること」と法律で決められています。
つまり木樽の香りがしっかりとワインにも移り、熟成による複雑な香りも感じることができるというわけです。
使用しているブドウはテンプラリーニョ種、ガルナッチャ種などで、豊かな果実味で飲みやすい品種です。
果実の香り+樽の香り+熟成の香り という複雑さを楽しんでください。
シャトー カフォル【フランス ボルドー地方】
フランス ボルドー地方のカスティヨン村というところで作られているワインです。
ボルドーではワインに格付けをしているのですが、格付けが低いワインは生産村の名前を名乗ることができません。
名乗っていい名前が「ボルドー地方」⇒「小地区名」⇒「村の名前」と狭くなっていくにつれ、格付けが上がっていきます。
このワインは2番目の格のため、品質が保証されています。
メルローというブドウをメインに使っていて、それなりに熟成しているので、渋みがあまりなく優しい味わいになっていて、この価格で熟成による味わいの広がりを感じられるのは貴重です。
格付けが高すぎないため、少し熟成した今くらいが美味しさのピークになっていて、熟成の味わいをコスパよく体験することができます。
逆に格付けが高すぎると、10年くらいではそこまで熟成の変化を感じないことがあります。
10年前後でしっかり熟成感を味わうなら、このくらいの格付けがちょうどよいです。
いかがでしたか?
熟成はワインにしかない魅力なので、興味が出てきたらまずはちょい熟ワインを飲んでみてください。
ちょい熟ワインをおいしいと感じたら、本格的な熟成ワインに進んでいきましょう。
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