今回は賛否あるかもしれませんが、日本で定説になっている「生牡蠣にはシャブリ」に切り込んでみようと思います。
シャブリは僕も大変好きなワインで、おそらく日本で最も有名なアイテムを過去にレビューしたことがあります。
シャブリと「生牡蠣」が合わない致命的な理由
シャブリに含まれる鉄分と生牡蠣の脂肪酸が反応することで生臭さを生み出すため、生食での相性は正直言って悪いです。
「牡蠣にはシャブリ」という言葉を信じて、レストランで生牡蠣に合わせてシャブリを注文し、生臭さに驚いた経験はないでしょうか。
実は、シャブリと「生牡蠣」の組み合わせは、科学的な観点から見ても相性が悪いことが証明されています。
ワインに含まれる「鉄分」や「亜硫酸(酸化防止剤)」が、生牡蠣に含まれる「アラキドン酸」などの過酸化脂質と口の中で交わると、化学反応を起こして不快な金属臭や生臭さ(魚臭さ)を急激に増幅させるからです。
シャブリはミネラル感が豊かなワインであるため、この現象がより顕著に現れ、せっかくの新鮮な海のミルクの味わいを損なってしまうのです。
なぜ「生牡蠣にはシャブリ」という定説が生まれたのか?
シャブリ特有の「キンメリジャン土壌」に含まれる古代の牡蠣殻由来のヨード香と、フランスの食文化が定説の起源です。
生牡蠣と合わないにもかかわらず、「シャブリと牡蠣は最高のマリアージュ」と語り継がれているのには、明確な理由が存在します。
主に以下の2つの背景が、この定説を作り上げたと考えられます。
テロワール(キンメリジャン土壌)のロマン
シャブリ地方のぶどう畑は、「キンメリジャン」と呼ばれるジュラ紀後期の特殊な石灰質土壌で構成されています。
この土壌には小さな小さな古代の牡蠣の化石が無数に含まれており、そこから育つぶどうには独特の「ヨード香(磯の香り)」や鋭いミネラル感が宿ります。
「牡蠣の化石から育ったワインだから、牡蠣に合わないはずがない」という、ストーリー性が先行して広まったのです。
有名なワイン漫画による影響
「ルイ・ジャド村名シャブリ。少なくともここに並んだシャブリの中ではこいつが(生牡蠣に合う)ベストな選択だ。」 by神崎雫
神の雫という有名なワイン漫画で、「生牡蠣にはシャブリ」ということが大々的に広まりました。
私も大好きな漫画ではありますが、ワインを学んだ後だと、このセリフにはやや違和感を感じます。
そもそもシャブリは内陸部のワインなので、伝統的に生牡蠣と合わせることはありませんでした。
19世紀になり、パリの食堂で生牡蠣が流行ると、それに合わせてパリからほど近いシャブリ地方のワインを合わせて飲むようになったのです。
しかし実は、衛生環境が良くなかった当時、牡蠣のような危険な食べ物を食べるときは、強い酸を有する白ワインを一緒に飲むことで食あたりを予防する、という目的があったのです。
つまり、必ずしも「味わいとして合う」から飲んでいるわけではなく、「食べ合わせが良い」から飲んでいたのです。
そしてさらに、最近は温暖化の影響でブドウがよく成熟するようになり、生牡蠣と合わせる際に重要な酸味が落ちてきているのです。
シャブリと牡蠣を合わせる「正しい」食べ方と相性
牡蠣を加熱調理して生臭さの元を絶つことで、シャブリの豊かな酸味やミネラル感が牡蠣の旨味を最大限に引き立てます。
シャブリと牡蠣を合わせる絶対条件は、「加熱調理」をすることです。
熱を加えることで生牡蠣特有の過酸化脂質の反応が抑えられ、生臭さが発生しなくなるからです。
調理法ごとのシャブリとのマリアージュ(相性)を以下の表にまとめました。
| 牡蠣の調理法 | シャブリとの相性 | マリアージュ |
|---|---|---|
| 生牡蠣 (そのまま) | ✖️悪い | 鉄分との反応で強烈な生臭さや金属臭が発生。避けるべき組み合わせ。 |
| 生牡蠣+オリーブオイルとレモン | △マシ | レモンのクエン酸が生臭さをある程度マスキングし、オリーブオイルが過酸化脂質を抑制。 |
| カキフライ | ◎抜群 | 余分な油分をシャブリの鋭い酸味がスッキリと洗い流し(ウォッシュ効果)、旨味が際立つ。 |
| 牡蠣のグラタン | ◎抜群 | ホワイトソースのコクに、シャブリ・プルミエ・クリュなどの樽香があるものが絶妙にマッチ。 |
| 牡蠣のバター醤油焼き | 〇良好 | バターの風味と火が入った牡蠣の濃厚な旨味に、シャブリのミネラル感が輪郭を与える。 |
では、生牡蠣と合わせるならどのようなワインがいいのか?
生牡蠣と合う白ワインを探す場合、鉄分の少ない甲州種やミュスカデ種がおすすめです。
生牡蠣はワインのペアリングが極めて難しい食材なので、基本的に奥ゆかしい控えめなワインとの相性が良いです。
例えば、日本の甲州種は果実中に含まれる鉄分が極めて少ないため、牡蠣の生臭さを引き出さずに見事なペアリングを見せてくれます。
また、伝統的に生牡蠣と合わせることが多かったロワール地方の沿岸部で作られる、ミュスカデ種のワインもよく合います。
ミュスカデのワイン中に感じられる独特な塩味と、牡蠣のコハク酸は相性が良いのです。
まとめ:シャブリと牡蠣は「調理法」で最高のマリアージュになる
シャブリと牡蠣の相性は調理法次第です。生食は避け、加熱した牡蠣を合わせることで、本来の極上の味わいを楽しめます。
「シャブリ=牡蠣に合う」という言葉は、決して嘘ではありません。
しかし、それは「加熱調理した牡蠣」という条件付きです。
特に近年は温暖化の影響もあり、よく熟したブドウを使ったシャブリが多くなっているため、生の牡蠣とは合いにくいです。
キンメリジャン土壌が生み出すシャブリ特有のミネラル感とキレのある酸味は、カキフライや牡蠣のバター焼きといった料理と合わせることで、まさに最高のポテンシャルを発揮します。
次にシャブリを開ける際は、ぜひ「火を通した牡蠣料理」を用意して、本物のマリアージュを体験してみてください。




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