「スクリューキャップのワインは鉄の香りがする」といわれるのはなぜか?

ブラインドテイスティング挑戦記
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YUJI

【プロフィール】
2021年にワインに目覚め、2022年J.S.A.ワインエキスパートに独学で一発合格。2024年からブラインドテイスティング競技を始め、2025年に第1回ドンファンカップ3位。
助手のコットン君と共に、初心者から競技者まで、少しでも役に立つ情報を発信できるように頑張っています。

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ブラインドテイスティングをしていると、こんな話を聞くことがあります。

「鉄っぽく冷たい香りを感じたら、スクリューキャップを疑う」

たしかに、スクリューキャップで熟成したワインから、鉄、冷たい石、火打石、マッチ、ゴムのような印象を受けることはあります。

YUJI
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しかし、最初に結論を言うと、鉄っぽい香りだけでスクリューキャップと断定することはできません。

テイスティング上の「鉄っぽさ」は、金属製キャップの成分がワインへ移った香りというより、還元的な状態や硫黄系の香りを、テイスターが「鉄」「冷たい火打石」と表現している可能性をまず考えるべきです。

そしてスクリューキャップは、その還元臭を必ず作り出す原因ではありません。

瓶内へ入る酸素量を左右し、瓶詰め時点のワインや硫黄化合物の状態を保ちやすくする要因のうちの一つです。

クロージャー比較試験でも、酸素を通しにくい栓ほど酸化が抑えられる一方、「reduced(還元的)」と評価される特徴が現れる場合が報告されています[1-4]。

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鉄っぽい香りは、なぜ「還元臭」と結びつくのか

ワインで使われる「還元臭」は、単一の香りの名前ではありません。

一般には、硫化水素やメタンチオールなどの揮発性硫黄化合物を中心とした、硫黄、ゆで卵、排水口、キャベツ、ゴム、マッチ、煙などを連想させる香りの総称として使われます[4-7]。

化合物・グループよく挙げられる印象注意点
硫化水素(H2S)腐った卵、排水口、硫黄生成経路は発酵中だけでなく、瓶内反応も関係する
メタンチオールなど低分子チオールキャベツ、ゴム、煙、閉じた香り濃度や他の香りとの組み合わせで印象が変わる
ベンゼンメタンチオール煙、火打石、焦げたニュアンス一部のワインのスモーキーな香りへの寄与が報告されている[8]

ただし、「鉄っぽい香り=硫化水素」ではありません。

人が鉄や血液に感じる金属臭でさえ、金属原子そのものが揮発して鼻へ届く単純な現象ではなく、鉄と皮膚成分などの反応によって生まれる微量の揮発性化合物が、金属的な匂いとして知覚されることが示されています[9]。

ワインでも同様に、「鉄」は物質名というより知覚した複合的な印象につけた言葉と考えたほうが良いと考えています。

YUJI
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僕自身は、このタイプの香りを「鉄」というより、冷たい火打石と捉えることが多いです。

同じワインを飲んでも、ある人は鉄、別の人は火打石、さらに別の人はマッチやゴムと表現するかもしれません。

これは誰かが間違っているというより、嗅覚刺激を過去の記憶と言葉へ置き換える過程に個人差があるためです。

実際、ワインの「ミネラル」「フリンティ」といった記述語は、単一の化学物質だけでは説明できず、硫黄化合物、酸味、果実香の強さ、栽培・醸造条件などが複合的に評価へ関わることが示されています[10-12]。

スクリューキャップの金属がワインへ溶けたわけではない

スクリューキャップの外側は、一般にアルミニウム製です。

そのため、「金属製のキャップだから、ワインも鉄っぽくなる」と考えたくなります。

しかし、そもそもアルミニウムと鉄は別の金属です。さらに、ワインボトルを密封しているのは、外側のアルミニウム製シェルだけではありません。

瓶口へ押しつけられて気密性を担うのは、キャップ内側にあるパッキン状のライナーです。

スクリューキャップのパッキンは何でできているのか

スクリューキャップのライナーは、瓶口の凹凸へ追従する弾性層と、ガスや液体の移動を調整するバリア層などを組み合わせた多層構造が一般的です。

代表的な構造には、発泡ポリエチレンなどの柔らかい層、樹脂フィルム、金属箔などが使われます。ただし、具体的な材料や積層方法はメーカー、製品、年代によって異なります。

ワイン業界では、伝統的に次の呼び方がよく知られています。

代表的な呼称おおまかな構造・性質瓶熟成への意味
Saran Tin系弾性のある樹脂層に、金属箔と樹脂系バリア層を組み合わせた低酸素透過型外部からの酸素流入を非常に抑えやすい
Saranex系発泡樹脂とポリマー系フィルムを中心とした構造Saran Tin系より酸素を通しやすい設計として比較されることが多い
酸素透過量を設計した現代型ライナー目的に応じてバリア性能を調整ワインのスタイルや想定熟成期間に合わせて選べる
※スクロールで全項目を確認できます。

Saran TinやSaranexは、すべての現行製品を示す一般名ではありません。重要なのは、「スクリューキャップ」という外観が同じでも、内側のライナーによって酸素透過量は同じではないという点です[2,3,13-15]。

SevenFifty Dailyのスクリューキャップ熟成に関する解説でも、スクリューキャップを一括りにせず、Saran TinやSaranexなどのライナー差によって酸素透過が変わる点が紹介されています[19]。

つまり「スクリューキャップ=完全密閉」ではなく、どのライナーを使ったスクリューキャップなのかまで見る必要があります。

重要なのは「金属かどうか」ではなく、酸素がどれだけ入るか

クロージャーを通って保存中に入る酸素量は、一般に酸素透過率(OTR)として扱われます。

一方、瓶詰め直後のボトルには、クロージャーから後で入る酸素とは別に、ワインへ溶けた酸素やヘッドスペース中の酸素があります。これらを含む瓶詰め時の酸素管理は、総パッケージ酸素(TPO)という考え方で整理されます[14,15]。

要素意味なぜ重要か
溶存酸素瓶詰め時にワインへ溶けている酸素瓶内で初期に消費され、香味変化へ影響する
ヘッドスペース酸素液面と栓の間にある酸素瓶詰め方法や不活性ガス置換で量が変わる
クロージャー由来の酸素栓内部や保存中の透過によって供給される酸素ライナーの設計、密封状態、保存期間などが関係する
※スクロールで全項目を確認できます。

つまり、低OTRのスクリューキャップを使っていても、瓶詰め時のTPOが高ければ、瓶内には一定量の酸素があります。

反対にTPOが低く、保存中の酸素流入も少なければ、ワインはより還元的な状態を保ちやすくなります。

そして瓶熟成中には、酸素、二酸化硫黄、グルタチオン、銅、硫黄化合物やその前駆体などが関わる反応が進みます。

ソーヴィニヨン・ブランを用いた研究では、酸素曝露量やクロージャー由来の酸素が、硫化水素やメタンチオールなどの推移に影響しました[4]。

したがって、スクリューキャップが還元臭をゼロから「付けた」というより、ワインがもともと持っていた硫黄化合物や、その後の生成可能性が、低酸素環境の中で表れやすくなったと考えるほうが実態に近いでしょう。

ここで、もう一つ大事なのが天然コルクとの比較です。

天然コルクは植物由来の天然物なので、一本ごとの密度、弾性、内部構造が同じではありません。

そのため、酸素透過量にも個体差が出やすく、同じロットのワインでもボトル差が生じる可能性があります。

クロージャー比較研究でも、コルクは個体差の影響を受けやすく、スクリューキャップのような工業製品とはばらつき方が異なることが示されています[1,3,13,14,19]。

つまり、スクリューキャップはライナーの設計によって酸素透過量が変わる。

一方で、コルクは天然物としての個体差によって、さらに酸素透過量がばらつきやすい。

ここを押さえると、「スクリューキャップかコルクか」という二分法だけでは、瓶内の酸素環境を十分に説明できないことが分かります。

YUJI
YUJI

還元的~酸化的な香りまで、グラデーションで推移しているイメージですね。

クロージャーは香りを「通す・通さない」だけでもない

さらに話を複雑にするのが、クロージャー自体による香気成分の吸着です。

研究では、硫黄化合物の一部がクロージャー材料へ取り込まれる、いわゆるスキャルピングが起こり、その程度が材料によって異なることも報告されています[6]。

つまり栓は、単なる酸素の蛇口ではありません。

  • 瓶外から入る酸素量
  • 栓内部に含まれる酸素
  • 瓶詰め時に残った酸素
  • 香気成分とライナー材料の相互作用
  • 保存期間や温度

これらが重なり、最終的な香りが形づくられます。

還元的な状態はスクリューキャップ以外からも生まれる

ここまで読むと、「結局、還元臭を感じたら低OTRのスクリューキャップであることが多いのでは?」と思うかもしれません。

しかし、まだ断定はできません。

揮発性硫黄化合物の量は、クロージャーを選ぶ前の段階から、次のような条件に左右されます。

  • ブドウや果汁に含まれる硫黄化合物の前駆体
  • 発酵中の酵母、窒素栄養、温度、濁度
  • 発酵中・熟成中の酸素管理
  • 澱との接触
  • 二酸化硫黄の添加量
  • 銅処理の有無と残存する銅・チオール複合体
  • 瓶詰め前の硫化水素やメタンチオール
  • 瓶詰め時の溶存酸素とヘッドスペース酸素

とくに銅処理は、硫黄臭を除くための伝統的な対策ですが、近年の研究では銅と硫黄化合物の反応や瓶内での再生成が単純ではないことも示されています[4,7,16]。

したがって、因果関係は次のように捉える必要があります。

醸造・瓶詰めまでに形成されたワインの状態 + 瓶詰め時の酸素 + クロージャーの酸素透過性と材料 + 保存条件 → 開栓時の還元的な印象

コルク栓でも還元臭は起こりえます。スクリューキャップでも、還元臭をほとんど感じないワインはたくさんあります。

クロージャーは重要な要素のひとつではありますが、原因のすべてではないので注意が必要です。

「鉄」「火打石」「ゴム」──香りの言葉には個人差がある

テイスティングコメントは、分析機器の測定値ではありません。

鼻が受け取った刺激を、記憶にある物や体験へ照合し、言葉に置き換えたものです。

そのため、同じ還元的なニュアンスでも表現が分かれます。

表現テイスターが捉えているかもしれない印象
鉄、血、金属冷たさ、硬さ、微かな硫黄、酸や塩味を含む複合的な印象
冷たい火打石フリンティ、煙、マッチ、鋭さ、果実香の抑制
ゴム、キャベツより明瞭な低分子硫黄化合物の印象
閉じている香りが弱い状態と還元的な香りをまとめて表現している可能性

この表は、言葉と化合物の一対一対応表ではありません。

むしろ大切なのは、自分が「鉄」と呼んでいる感覚を、他の言葉へ少し分解してみることです。

冷たいのか。煙っぽいのか。硫黄を感じるのか。果実香が抑えられているのか。口中の酸や塩味まで含めて金属的と感じたのか。

この分解ができると、「鉄だからスクリューキャップ」という暗記から抜け出せます。

ブラインドテイスティングでは、クロージャーを断定しない

ブラインドテイスティングでは、一つの特徴から一つの答えへ飛びつくほど、推論が不安定になります。

鉄っぽい、冷たい火打石のような香りを感じたときは、次の順番で考えるのがおすすめです。

  1. まず「還元的なニュアンスがある」と記録する
  2. 硫黄、マッチ、煙、ゴム、冷たさなどへ印象を分解する
  3. 果実香が隠れているのか、酸や質感も金属的に感じるのかを確認する
  4. 醸造、瓶詰め、熟成、クロージャーを並列の仮説として残す
  5. ほかの品種・産地・熟成・品質の手掛かりと整合するかを見る

「還元的である」は観察に近い言葉ですが、「スクリューキャップである」は原因についての推論です。

この二つを区別することが、ブラインドテイスティングではとても重要です。

白ワインのコメントを組み立てる練習には、CB Winesの白ワイン・ブラインドテイスティング練習も使えます。

試験での香りの捉え方を整理したい方は、ワインエキスパート二次試験のテイスティング対策も参考にしてください。

体系的にブラインドの考え方を学びたい人へ

ブラインドテイスティングは、香りの暗記だけでは上達しにくい分野です。

観察した事実と、そこから導く仮説を分ける。複数の可能性を残しながら、全体の整合性で絞り込む。

今回の「鉄っぽい香り」も、まさにこの思考法を練習できる題材です。

講師の考え方や実際のテイスティングを通して学びたい方には、オンラインで専門講座を受講できるヴィノテラスの講座があります。現在開講中の内容を確認し、自分の課題に合う講座だけ選ぶのがよいと思います。

手元で繰り返し思考の型を確認したい方には、書籍『ワイン ブラインドテイスティングの教科書』も選択肢です。

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まず本で考え方を整理し、必要なところだけ講座で体験する。あるいは練習会で出た疑問を、後から本や講座で確かめる。訴求ではなく、学び方の一つとして取り入れてみてください。

まとめ:「鉄っぽい」は答えではなく、還元を考える入口

スクリューキャップのワインから、鉄、冷たい火打石、マッチのような香りを感じることはあります。

しかし、その香りはアルミニウム製キャップから金属臭が移った、と説明できるものではありません。

キャップの内側には、瓶口を密封する多層ライナーがあります。その材質と設計によって酸素透過量が変わり、瓶詰め時の酸素、ワイン中の硫黄化合物、保存条件などとともに、開栓時の香りへ影響します。

だからこそ、僕はブラインドテイスティングで次のように整理します。

鉄っぽい、冷たい火打石のような印象を感じたら、「還元的なニュアンスがある」と捉える。スクリューキャップは仮説の一つに留め、醸造法、瓶詰め時の酸素管理、熟成、クロージャーを並列に検討する。

香りは答えではありません。

ワインの中で何が起きたのかを考えるための、ひとつの手掛かりです。

YUJI
YUJI

ここまで、僕が文献を読んで調べたことと、普段のテイスティングで感じていることを整理してみました。文献調査めちゃくちゃ疲れました(笑)

コットン(助手)
コットン(助手)

感覚は人によって様々。みんなの考察もぜひコメント欄で教えてね!

参考文献・参考情報

  1. Godden, P. et al. (2001). Wine bottle closures: physical characteristics and effect on composition and sensory properties of a Semillon wine. 1. Performance up to 20 months post-bottling. Australian Journal of Grape and Wine Research, 7, 64-105. DOI
  2. Brajkovich, M. et al. (2005). Effect of screwcap and cork closures on SO2 levels and aromas in a Sauvignon Blanc wine. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 53, 10006-10011. DOI
  3. Lopes, P. et al. (2007). Impact of storage position on oxygen ingress through different closures into wine bottles. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 55, 5167-5170. DOI
  4. Ugliano, M. et al. (2011). Evolution of 3-mercaptohexanol, hydrogen sulfide, and methyl mercaptan during bottle storage of Sauvignon blanc wines: effect of glutathione, copper, oxygen exposure, and closure-derived oxygen. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 59, 2564-2572. DOI
  5. Bekker, M. Z. et al. (2016). Formation of hydrogen sulfide in wine: interactions between copper and sulfur compounds. Journal of Agricultural and Food Chemistry. Google Scholar
  6. Silva, M. A. et al. (2012). Scalping of light volatile sulfur compounds by wine closures. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 60, 10952-10956. DOI
  7. Kreitman, G. Y. et al. (2016). The role of copper and sulfur compounds in wine reduction chemistry. Google Scholar
  8. Tominaga, T. et al. (2003). Contribution of benzenemethanethiol to smoky aroma of certain Vitis vinifera L. wines. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 51, 1373-1376. DOI
  9. Glindemann, D. et al. (2006). The two odors of iron when touched or pickled: (skin) carbonyl compounds and organophosphines. Angewandte Chemie International Edition, 45, 7006-7009. DOI
  10. Deneulin, P. et al. (2017). Sensory and chemical drivers of wine minerality aroma: an application to Chablis wines. Food Chemistry. DOI
  11. Zaldívar Santamaría, E. et al. (2019). Statistical modelization of the descriptor “minerality” based on the sensory properties and chemical composition of wine. Beverages, 5, 66. DOI
  12. Parr, W. V. et al. (2015). Research on the perception and conceptualization of wine minerality. Google Scholar
  13. Furtado, I. et al. (2021). The impact of different closures on the flavor composition of wines during bottle aging. Foods, 10, 2070. DOI
  14. Australian Wine Research Institute. Oxygen transmission rate. AWRI Fact Sheet
  15. Australian Wine Research Institute. Understanding total package oxygen. AWRI Fact Sheet
  16. Australian Wine Research Institute. Removal of volatile sulfur compounds. AWRI
  17. Waterhouse, A. L., Sacks, G. L., & Jeffery, D. W. (2016). Understanding Wine Chemistry. Wiley.
  18. ヴィノテラス ワインスクール「講座紹介」 公式ページ
  19. SevenFifty Daily. The Science of Aging Wine Under Screw Cap. https://daily.sevenfifty.com/the-science-of-aging-wine-under-screw-cap/

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